共有

第20話  

「俊朗、明日の電話、待ってるから!!!」

 秋元詩韻の声がライブ配信ルームに響き渡った。

 ルームは大盛り上がりだった。

 「ああ…俺の女神が!」

 「悲しくて、息ができない!」

 「また一人の女神が俺たちの元から去ってしまうのか…」

 高坂俊朗の大きな金色のコメントが、再び画面に表示された。

 「ハハハ!いいね…詩韻、明日、君に最高の夜を過ごさせてあげるよ」

 森岡翔は、そろそろいいタイミングだと感じ、コメントを投稿した。彼もまた、レベル100を超えていたので、コメントは目立った。

 「ランキング1位になったら、配信者とデートできるって本当ですか?」森岡翔は言った。

 「マッチ棒兄貴、女神を助けてくれ!」

 「そうだよ、マッチ棒兄貴、悪魔の手から女神を救い出してよ!」

 「何を言ってるんだ!マッチ棒兄貴がランキング1位になったら、女神はマッチ棒兄貴のものになるに決まってるだろ!」

 「俺も、マッチ棒兄貴にランキング1位になってほしい!」

 普通のコメントが、画面を埋め尽くしていた。

 「秋元さんに聞きたいんですけど、ランキング1位になったら、本当にデートできるんですか?」森岡翔は続けて尋ねた。

 「ええ」秋元詩韻は答えた。

 「分かった!」

 森岡翔は、それ以上何も言わず、スーパードリームロケットを発射した。

 (小さなマッチ棒が配信者秋元ちゃんにスーパードリームロケットを1個贈りました)

 10分後…

 (小さなマッチ棒が配信者秋元ちゃんにスーパードリームロケットを666個贈りました)

 30分後…

 (小さなマッチ棒が配信者秋元ちゃんにスーパードリームロケットを1314個贈りました)

 1時間後…

 (小さなマッチ棒が配信者秋元ちゃんにスーパードリームロケットを2520個贈りました)

 2時間後…

 (小さなマッチ棒が配信者秋元ちゃんにスーパードリームロケットを5200個贈りました)

 人たちは、呆然としていた…

 高坂俊朗は、呆然としていた…

 秋元詩韻も、呆然としていた…

 ライブ配信ルームの視聴者数は、30万人を超えていた。

 スーパードリームロケット5200個とは…2億円以上だった!

 クジラライブ開設以来、最高額のスパチャ記録更新だった。

 「マッチ棒社長、すげえ!」

 「マッチ棒社長、最高!」

 「マッチ棒社長、かっこいい!」

 「マッチ棒社長、あなたは私のアイドルです!」

 「マッチ棒社長、あなたの子どもを産みたい!」

 画面は、そんなコメントで埋め尽くされた。

 高坂俊朗は、まるでハエを飲み込んだような気分だった。1億2千万円以上も使ったのに、何も得られなかった。

 彼は今、殺してやりたいほど怒りを覚えた。

 スマホを取り出して、相川沙織に電話をかけた。怒りをぶつける相手が必要だったのだ。

 電話がつながった。

 「もしもし?俊朗?どうしたの?こんな時間に電話してきて…」相川沙織の声が電話から聞こえてきた。

 「沙織、今すぐ出て来い。学校の門の前で待ってる」高坂俊朗は、電話に向かって言った。

 「俊朗、もう深夜2時過ぎてるわよ。何か用事があるなら、明日にしてくれない?」

 「今すぐ出て来いと言ってるんだ!」高坂俊朗は、歯を食いしばって言った。

 「でも…」

 「いいから、今すぐ、すぐに、出て来い!今夜、お前が出てこなかったら、どうなるか分かってるよな!」

 そう言うと、高坂俊朗は電話をガチャリと切った。

 電話の向こうでは…

 相川沙織は、高坂俊朗からの電話で目を覚ました。電話に出たものの、高坂俊朗の剣幕に怖くなってしまった。

 しばらく迷った後、相川沙織はゆっくりと起き上がった。ルームメイトを起こさないように、そっと服を着た。

 以前、森岡翔と付き合っていた時は、こんなことは絶対にありえなかった。森岡翔は心から彼女を愛しており、いつも彼女の気持ちを考えてくれていた。

 彼女がお腹が空いたと言えば、森岡翔はどんなに遅くても、すぐに食べ物を寮の1階まで持ってきて、電話をかけていた。一度も、彼女にこんな言い方をしたことはなかった。

 それに、森岡翔は彼女をとても大切にしていた。4年間も付き合っていたが、彼女がまだ心の準備ができていないと言ってたので、決して無理やりしなかった。

 しかし、高坂俊朗と付き合ってからは、最初の頃はプレゼント攻略で優しかったが、体を許してしまうと、本性を現し始めた。

 全く彼女の体のことを気遣ってくれなかった。

 今はすでに深夜2時半だ。こんな時間に呼び出されるなんて、きっとムラムラしていたに違いなかった。

 そう考えると、相川沙織は涙が止まらなくなった。

 全ては、自分が愚かで、世間知らずで、見栄っ張りだったせいだ…

 相川沙織のルームメイトで親友の高木敏は、物音で目を覚えた。沙織のベッドの方で何か音がした。

 「沙織、何してるの?」高木敏は目をこすりながら尋ねた。

 「何でもないわ、敏。早く寝て。ちょっとお腹が空いちゃって…俊朗が学校の門の前で待ってるの。食べに連れて行ってくれるって」相川沙織は答えた。

 高木敏は、相川沙織の声色がおかしかったことに気づいた。寮の部屋には二人しかいなかったので、彼女はベッドから起き上がり、電気をつけた。すると、ベッドの上で服を着ながら泣いていた相川沙織の姿が目に入った。

 高木敏は慌てて彼女の元へ駆け寄り、抱きしめた。

 「沙織、どうしたの?また高坂に何かされたの?」

 「ううん…な、何も…」

 「何もないわけないでしょ!きっと、高坂のせいよ!沙織、私が前から言ってたじゃない。高坂はろくな男じゃないって。近づいちゃダメだって。でも、あなたは私の言うことなんて聞かなかった。ほら」

 「敏、本当に大丈夫だから!」

 「まだ嘘つくの?あなたが夜中にこっそり泣いてるの、何回も見てるわよ。本当に理解できないんだけど、森岡さんはあんなに沙織のこと愛してるのに、なんで高坂を選んだの?お金持ちだから?」

 「敏、もうやめて!」

 「沙織、高坂とは別れなさい!森岡さんのところに戻りなさいよ。森岡さんこそ、沙織を本当に愛してる人だし、沙織を幸せにしてくれる人よ。高坂は、ただ遊びたいだけなの。ここ数年で、少なくとも10人以上の女と付き合ってるわ。みんな、数日遊んだら捨てられてる」

 「敏、もう無理よ。もう、元には戻れないの!」

 相川沙織は、もう我慢できなくなって、高木敏の胸の中で泣き崩れた。

 数分後…

 相川沙織は泣き止むと、高木敏の腕から離れ、再び服を着始めた。

 高木敏は、相川沙織が服を着るのを止めようとして、言った。「沙織、もうこんな時間よ。出かけちゃダメ!何があったか知らないけど、明日、話せばいいじゃない!」

 「敏、ダメなの。俊朗が学校の門の前で待ってるの。私が行かなかったら、私を捨ててしまうわ」

 「捨てられるなら、捨てられればいいじゃない!そんなに大事なこと?」

 「でも…でも…私、俊朗の子どもを妊娠してるの…もし、彼に捨てられたら、私、どうすればいいの?」相川沙織は泣きながら言った。

 「沙織…ああ…」

 高木敏は、何も言えなかった。ただ、ため息をつくしかなかった。そして、相川沙織が服を着るの邪魔を諦めた。

 相川沙織は服を着終えると、急いで学校の門へと向かった。

 秋元詩韻は、興奮のあまり顔が真っ赤だった。

 「マッチ棒社長、スーパードリームロケット5200個、ありがとうございます!愛してるわ!ちゅっ!」

 そして、すぐに森岡翔に友達リクエストを送った。

 友達登録が完了すると、秋元詩韻からメッセージが届いた。

 「マッチ棒社長、ラインも交換しませんか?これは私の電話番号です。明日、連絡お待ちしております!」

 二人は、無事にラインでつながることができた。

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status